第 一 幕
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平成十五年七月十八日、梅雨明けぬ日の午後である。目黒鹿鳴館の地下の楽屋。よくある寂れた舞台裏の楽屋風景。リハーサルをおえたばかりのバンドマン五人、衣装に着替えながらモニターがどうしたとか、スタッフの娘が可愛いとか、靴がここわれたとか口々
に雑談中。上手には鏡張りと化粧台、中央に椅子が五、六脚。下手の白塗りの壁にタイムスケジュールなどが貼ってある。やがて上手奥(楽屋入口)より、アンケート用紙やその他備品を抱えながらマネージャーなひろ登場。
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けんけん |
あっ、なひろー、後で俺の煙草買って来てー。 |
なひろ |
はーい。(右手を上げまわりを見渡しながら)皆さーん、後でコンビニ行きますけど何か要るものあります? |
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(皆、それぞれ必要なものを申告する。) |
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(なひろ、コンビニへ行く為、上手から退場。) |
大治 |
(髪を立てながら、じみーの方見る)じみーさん、オープニング
なんですけど、俺が一曲目のイントロ弾きだしたらけんけんとばっきーが入って、幕が開いてそのあと葵がシャウトしますから、その時ギター引き始めて下さい。・・・じみーさん? |
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(じみー何やらギターを振って、首を傾げている。) |
大治 |
(怪訝に)どーしたんですか? |
じみー |
あ、ごめん。ギター振ると中で音がするみたい。何かいるのかな? |
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(ト真剣な面持ちでギターを振る) |
ばっきー |
(これをさっきから興味深そうに眺めながら)ギターのパネル開けてみましょうよ。 |
じみー |
(ドライバー片手に、恐る恐るパネルを開けてゆく)あっ。 |
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(幅一センチ、長さ三センチほどのパーツが外れていた。) |
ばっきー |
何ですか、それ。 |
じみー |
コンデンサーだね。たぶん。 |
ばっきー |
やばいんじゃないですか? |
じみー |
やばいね。たぶん。 |
ばっきー |
すぐ直せるんもんなんですか? |
じみー |
無理だね。絶対。 |
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(そこへ下手より、鹿鳴館スタッフ元気に登場。) |
鹿鳴館スタッフA |
まもなく本番です!宜しくお願いしまーす! |
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(__間。) |
ばっきー |
音出ますかね? |
じみー |
(全員見まもる中)・・・どうかな。 |
__幕__
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第 二 幕
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鹿鳴館舞台上。幾分大音量でBGMが流れる中、客席との幕が引かれてある暗がりの舞台上。下手から大治、ばっきー、中央に葵、けんけん、上手へじみー、と各位置に着く中、鹿鳴館スタッフBとC舞台上を行ったり来たり。更に幾分大音量でBGMからSEへと移った時、大治、第一曲目のイントロをギターで弾き始める。しかしこの場に及んで葵とスタッフ、幾分大音量の中、耳元へ大声で話しかけ打ち合わせている。要するに何かトラブっている。
(ここで重要なのは、葵は焦った臨場感を高める為、出来るだけ早口でスタッフへと喋り、大治はギターを弾きつつも視線を葵の方へ、ばっきー、けんけん、じみーの三人は平静を装いつつも内心の不安を表情に醸し出していなければならない。)
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葵 |
(割りと大声で)×××××・・・! ×××!?・・・・ |
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(SEとギターの大音量な中、言っている内容が聞こえない。) |
鹿鳴館スタッフC |
××××××? |
葵 |
×××××××!・・・・×××××? |
鹿鳴館スタッフB |
×××××? |
葵 |
×××××××・・・×××・・・・・×××××××!!? |
鹿鳴館スタッフB |
×××××・・××××××××××?? |
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(__間。) |
葵 |
××××××××!・・××××××××!××××××××××!? |
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(トここで、けんけんのドラムとばっきーのベースが入り、舞台上は更に大音量へとなる。) |
葵 |
××××××!!・・・××××××××!?×××××××××!!! |
鹿鳴館スタッフB |
×××××××××!・・×××××××××!? |
葵 |
×××××××!!××××××××××? |
鹿鳴館スタッフC |
×××××××!? |
葵 |
××××××××!!×××××××××・・・・・・! |
鹿鳴館スタッフB |
××××××!・×××××××!? |
葵 |
××××!!××××××××××!!! |
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(約一曲分もの長さのイントロがつづいた中、やっと幕が開く。) |
葵 |
(割りと笑顔で)こんばんはー!ごーーるどろっくすでーすっ!! |
__幕__
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